リリ・ブーランジェの
管弦楽付き作品フル・スコアについて

鷺澤伸介
(最終改訂 2015.9.27)

2015年9月末現在、リリ・ブーランジェの管弦楽付き作品でスタディ・フル・スコアが入手可能になっているものは、以下のようです。
曲名 売譜出版社 無料ダウンロード
兵士の葬儀のために カルマス
仏教の古い祈り ヘフリッヒ(2010) IMSLP国際楽譜ライブラリープロジェクト
詩篇24番 ヘフリッヒ(2011) IMSLP国際楽譜ライブラリープロジェクト
詩篇129番 ヘフリッヒ(2011)
詩篇130番 ヘフリッヒ(2011) IMSLP国際楽譜ライブラリープロジェクト
上記ヘフリッヒとIMSLPの楽譜は、ほとんどがデュランが作成した古い版をそのまま複写したものですので、当然デュラン版の不審箇所もそのままになっています。ただ、この中でヘフリッヒの『詩篇24番』だけは、見たところFinaleか何かの楽譜浄書ソフトで新しく作成し直したもので(コンピューターで作成した多段楽譜は、何となく見づらいのですぐ分かりますよね)、私はこの楽譜を見たとき、ちょっと嫌な予感がしました。楽譜浄書ソフトで打ち直した楽譜には、意外と間違いが多いことを経験しているからです。結果的に、その予感は半分ははずれ、半分は当たりました。ヘフリッヒ版には、デュラン版の不審箇所が直っている場合と、新たに犯したミス(とおぼしき箇所)とが混在していたからです。
次の画像はヘフリッヒ版の新たなミスの一例で、最初に男声が歌い出す箇所ですが、テノールの八分音符のAがCになってしまっています。すぐ下段の、合唱サポート用任意演奏のF管ホルン1・3番の音高と比較してみてください。――下の画像のパートは、上からテノール、バス、F管ホルン1・2番、同3・4番。音部記号は、バスだけがヘ音記号、そのほかはト音記号です。
詩篇24番ヘフリッヒ版p1
ヘフリッヒの『詩篇24番』でいちばん困るのは、楽器編成のページを省略してしまっていることでしょう。そこには楽器編成表だけでなく、《リリ・ブーランジェに関するエッセイ二編 日本語訳》のページにも書いた「各楽器のパートは、合唱が非常に大きければ、バランスを維持するために倍または三倍にしてもよいでしょう……」云々の注意書き、すなわち演奏に当たっての基本的な留意事項も書かれているからです。楽器編成表はともかく、作曲者自身による(と思われる)実演上の注意書きが落ちてしまっているのは、まったくいただけません。
とは言うものの、『詩篇24番』についてはIMSLPで古いデュラン版を参照することができますし、そちらには楽器編成表のページもちゃんと付いていますので、研究する場合には両方を相互参照するのがよいと思います。

……ヘフリッヒからは『ピエ・イエズ』も出ていますが、これもデュラン版と同じです。パート譜付きなのも同じですから、デュラン版のセットをお持ちの方はあらためて買う必要はないでしょう。
……リリの楽譜については、『リリ・ブーランジェ ピアノ曲集』(平野貴俊・校訂、カワイ出版、2015)も出ています。これは国内版ですので、もうご覧になった方や弾いてみた方も多いと思われます。本書は作曲家自身の手稿譜ほかさまざまな資料に当たってかなり厳密に校訂した楽譜集となっており、リリのピアノ曲集では今のところおそらく世界一信頼に足る内容になっていると思います。

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