時間の実験 日本語訳

ジョン・ウィリアム・ダン
John William Dunne
鷺澤伸介:訳
(初稿 2019.12.2)
(最終改訂 2020.3.16)

ジョン・ウィリアム・ダン(1875-1949)の『時間の実験』(英語)を翻訳しました。

底本

時間の実験

ジョン・ウィリアム・ダン

【注釈】
◎19~20世紀イギリスの航空エンジニアによって書かれた、「予見的な夢」および「時間」についての非常に有名な研究本。
●底本には、筆者死後の重版である1958年刊の版を用いた。本書は、1927年に初版が出て、1929年の第二版、1934年の第三版ではそれぞれ大きな改訂が施された。以後の版でも第三版をベースに小さな改訂が重ねられ、それはダンの死の直前まで続いたようである。すべての版を比較したわけではないので断言はできないものの、底本は、おそらくこの著作の最終形であると思われる。
●この本は、「夢の実例と実験」が書かれている第二部と第三部はそうでもないのだが、「時間についての考察」が書かれている第一部および第四部以降は極めて難解な文章を持っている。筆者自身は「コントラクト・ブリッジのルールよりも、はるかに理解が容易」と書いているけれども、実際はそれどころではなく、この本に影響を受けたプリーストリーが、「手ごわい晦渋さ」とか「私の女性通信者のかなり多くを挫折させたと想像され、彼女たちは、『時間の実験』の前半は楽しんで読んだけれども、後半は道に迷ってしまったと告白した……」とかと書いているほどである。
――本書の、特に後半には、訳者にもよく分からない箇所がかなりあり、それらは「とりあえず日本語に直した」だけになってしまっています。よって、不適切な訳が「必ず」混入しているであろうことをあらかじめお詫びしておきます。ただ、少しでも(読者ならびに訳者自身の)理解が容易になるようにと、できる範囲で少数ながら訳注を付け、図の参照が求められる箇所では煩をいとわず何度でも繰り返し既出の図を再掲しておきました。これらはもちろん底本にはない処置です。煩わしいと感じる方もいらっしゃるでしょうが、ご宥恕いただければ幸いです。
●上記のような次第で、解説を書くのも訳者には荷が重いため、解説に代えて、巻末にダンの著作やその理論に対する同国人による批評を訳出しておいた。筆者生前に書かれたH・G・ウェルズのもの二編と、筆者死後に書かれたJ・B・プリーストリーのものである(この二人とダンの三人は互いに面識があった)。イギリス人以外ではJ・L・ボルヘスによる批評も知られているが、これについては岩波文庫『続審問』(中村健二・訳、2009)にすでに訳されているので、必要ならばそちらを参照してほしい。……なお、ダンが本書中で触れているC・H・ヒントンの『第四の次元とは何か』は、国書刊行会『科学的ロマンス集』(ボルヘス編・バベルの図書館25、宮川雅・訳、1990)に訳出されている。また、やはりダンが本書中で触れているベルクソンの著作については、ここで紹介するまでもないと思われる。
【「解説に代えて」底本】
・THE WAY THE WORLD IS GOING / H. G. Wells / Ernest Benn Limited / 1928
……本書は『世界は動く』の題で邦訳(加藤朝鳥・訳、東京堂、1930)が出たことがあるため、「そちらを参照」で済ませるつもりだった。しかし、これは昭和初期の出版ゆえ今では容易に参照できないと考え直し、このたびダンの章だけを新たに訳した。
・THE SATURDAY REVIEW OF LITERATURE / Vol. XIX, No. 11, January 7, 1939
・MAN AND TIME / J. B. Priestley / Aldus Books Limited / 1964
……本書のみ十年留保対象としての翻訳。このフルカラーの豪華本は、かつて拙訳『ピクニック・アット・ハンギングロック』の解説で触れたことがあった。
●ダンは、自らの時間についての理論を Serialism(シリアリズム)と命名している。定訳のないこの重要な単語の訳し方は、そのまま片仮名表記にすることも含めいろいろ考えた末、ひとまずほとんど直訳である「連続理論」としておいた。ランダムハウス英和辞典では、(特にダンが用いた用語として)「継起説」「時間転移説」という訳語が挙げられており、上記ボルヘスの訳本での中村健二氏は、巻末訳注において「系列時間論」という訳を当てておられる。このうち、「時間転移説」は原語のニュアンスがなくなっているので採りにくいが、「継起説」「系列時間論」と訳すのは特に問題はないと思われる。訳者としては、ダンの理論は要するに「ホムンクルスの誤謬」的な「無限後退論」にほかならないので、「連続」あるいは「継起」という語を用いるのがよいのではないか、と(今のところは)思っている。
★夢日記をつけたことがある人なら、たいてい経験しているであろう「予見的な夢」。訳者も以前から夢日記をつけており、そういう夢を時々見ています。これが今回の翻訳の動機になりました。
★予見的な夢については、ダンと同年に生まれたユングの紹介例がよく知られています。ユングと物理学者パウリ共著の『自然現象と心の構造』には、ダンのマルティニーク島モンプレー(プレー山)噴火についての体験も紹介されています。

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